「営業力=ヒアリング力(聴く力)」という言葉を一度は聞いたことがあると思います。
ただこれを言葉の通り受け取り、以下のような間違った理解をしている人が非常に多いです。
- 相手がたくさん話してくれれば成功
- 自分からはできるだけ話さず待ちの姿勢が重要
実はヒアリング力は相手の話を聞く能力ではなく、的確な質問を投げかける能力を指します。
ここで少し私の経歴ですが、私は適応障害という地獄の日々から、「営業力」だけで独立し、これまで家族を私の稼ぎだけで養ってきました。しかし、最初から営業力があったわけではなく、心理学、マーケティング、行動経済学など、様々な角度で営業を学び、取り組んできたからこその今があります。
そんな中で営業に必要な「質問力」も学び、実践しています。
この記事では、ヒアリング力が重要なのは理解しているが、具体的な行動に落とし込めない方に、ヒアリングのコツと注意点を説明します。
この記事を読むことで、あなたの質問力は大幅に向上し、比例するように営業の受注率も向上します。
私の実体験も含めて、実践的な方法を紹介しているので、是非最後まで読んでいただき、あるからの営業活動に役立ててください。
営業の基本かつ、最も重要なヒアリング力について全力で説明します!
営業におけるヒアリングとは良い提案をするための仮説検証
営業がヒアリングをする目的は、「良い提案をするための仮説検証」のためです。
そもそも営業の最終目標とは、言うまでもなく売上を上げることです。
業種によっては、契約の際のスポット的なものから、LTVと呼ばれる長期的に得られるものまで様々な売上の考え方がありますが、何かしらの売上を上げることを目標にする点は共通です。
ヒアリング、という言葉だけを聞くと、情報収集のための質問、というイメージを持つ人が多いですが、情報を集める目的をしっかり意識する必要があります。
ヒアリングとは営業の最重要ステップ
ヒアリングは営業活動の中で最も重要なステップになります。
なぜなら、ヒアリングで得た仮説検証の結果をもとに、次の見積や提案のフェーズに進むためです。
正しいヒアリングができていない場合、以下のような問題が発生します。
- 営業の次のステップに進むことができない
- 進めたとしても、相手のニーズを満たせず失注する可能性が非常に高い
あなたがどれだけ素晴らしいプレゼンをしても、それが間違った方向に進んでいては、受注になることはありません。
相手と同じ目線で、同じ方向を向くための時間が、このヒアリングのフェーズなのです。
相手のニーズを知ることが、意味のある提案をするために最低限必要な要素です。
ヒアリングをする目的は仮説検証
何度も言いますが、ヒアリングをする目的は仮説検証です。
「お客様の話に耳を傾ける」よく聞く言葉ですが、仮説のない状態ではうまくいかないことが多いです。
なぜなら、全く仮説を持たずに聞いていると、深掘りをして聞くべき箇所がわからず、結果として浅いヒアリングになりがちです。
お客様に寄り添って聞いていたはずが、実は何も真意を掴めていない、そんな状態を避けるためにも仮説は必要です。
また、個人的な経験からお話しすると、仮説を持ってヒアリングをすると、お客様が気づいていないかったような、潜在的な課題を一緒に見つけられる瞬間があります。
仮説をもとにした鋭い質問だからこそ、お客様に気づきを与えられるのです。
お客様が気づいていない潜在的なニーズを掘り起こした瞬間の信頼獲得は、営業の醍醐味と言えるほど気持ちいいですよ!
営業が良いヒアリングをするためのコツ6選
営業のヒアリングにはいくつかテクニックや、押さえておくべきコツがあります。
書籍やネットで様々な方法が取り上げられていますが、私が実践した中で効果が高いと思った方法を説明します。
それぞれ厳密に連動をしているわけではないので、取り組み易いものもからチャレンジしていただければと思います。
精度の高い仮説を持っておく
ヒアリングの目的は仮説検証、と記載したように、仮説を持っておくことは非常に重要です。
そしてその仮説は精度が高ければ高いほど良いです。理由は以下の通りです。
- 精度の高い仮説からは、お客様が気づきを得やすく、潜在ニーズを発掘できる
- 営業としての実力を示すことができるため、お客様との信頼関係を築くことができる
この精度の高い仮説を立てるためには、事前の情報収集が非常に重要になります。
ここで精度の高い仮説の立て方を解説すると、その他のコツが紹介できなくなるため、詳細は別記事にて説明します。
情報収集の方法と仮説の立て方は以下記事にまとめているので、お時間のある方は是非目を通してください。
2種類の質問を使い分ける
質問にはクローズドクエスチョンとオープンクエスチョンという2種類の質問が存在します。
- クローズドクエスチョン
-
回答を限定する質問。選択肢を用意して、その中から選ばせる質問。「はい」か「いいえ」を選ぶものや、「犬と猫ではどちらが好きか」といった質問など。
コトバンク クローズドクエスチョン - オープンクエスチョン
-
回答の範囲を制限しない質問。「はい」「いいえ」などの選択肢がなく、回答者が自由に考えて答える質問。「休暇にはどこへ行きたいか」「なぜそう思うか」といった質問など。
コトバンク オープンクエスチョン
これらはそれぞれどちらが良い、悪い、ではなく、使い分けることが非常に重要です。
シチュエーション毎に様々な使い分けの方法がありますが、ここではセオリー的な基本をお伝えします。
基本的に順番は、クローズドクエスチョン→オープンクエスチョンに切り替えていくと良いです。
理由として、オープンクエスチョンはお客様に考えさせる質問のため、回答に労力を使います。よって、まだ営業に対して信頼がない、あるいは乗り気ではない場合、気持ちが離れる可能性があるためです。
また、個人的に気をつけていることは、序盤はできる限り回答が「Yes」となる質問をするようにしています。
人は肯定的な言葉を口にすることで、前向きな気持ちになっていくため、最初は気分を上げてもらうためにも、「Yes」を引き出すことをお勧めします。
ヒアリングシートを埋めるイメージで質問する
営業をする場合は、ヒアリングシートを作成し、それぞれの項目を埋めるようにヒアリングをしてください。(ヒアリングシートの作成方法は後述)
実はヒアリングをしていると、その会話が盛り上がれば盛り上がるほど、聞くべきことを聞き漏らすことがあります。
ある項目については大量の情報があるのに、ある項目については聞き漏らす、というようなイメージです。
人間誰しも何かに夢中になると、他のことが頭から抜けるものです。ヒアリングも同様に、盛り上がると会話に熱が入り、満遍なく聞くことができなくなります。
そこで、ヒアリングシートを会話の道標として利用することで、情報の漏れをなくすことができます。
ヒアリングは深さも重要ですが、絶対に聞くべき項目は外さない幅はより重要となります。
現在、過去、未来の順番に確認する
最終的に引き出したい、この商品やサービスを使って将来どのようになりたいかを引き出すためのテクニックです。
ヒアリングは現在→過去→未来の順番にすることで、お客様が回答をしやすくなります。
- 現在:今時点で感じている課題や、解決したいと思っていること
- 過去:課題が発生している原因や、これまでの背景
- 未来:今後どのようになっていきたいのか、解決した先で目指す姿
このような順番でヒアリングをするイメージとなります。
現在はまさに”今”起こっていることなので、最も回答しやすく、未来はまだ未確定かつ想像力が必要なため、最も回答が難しいものになります。
また、未来の姿を想像できていない人が多いので、信頼を得た後に一緒に考えていくことが重要になります。
ここでも将来目指すべき姿の仮説を持っておくことで、スムーズにお客様との会話を進めることができます。
クロージングに繋がる、プレクロージングを行う
プレクロージングとは、最終的なクロージング前にお客様の温度感を確認する作業のことを指します。
このプレクロージングが必要な理由は、クロージングで”No”を言われてしまうとそこからの逆転はほぼ不可能だからです。
プレクロージングはヒアリングのコツとは少し異なるのですが、お客様の状況を確認するという意味ではヒアリングなのでこちらで紹介します。
例えば、お客様に見積りを提出し、結論を求めた際に「Aという機能が自社とは合わないから、今回はお断りします」と言われた場合、ほぼ逆転は不可能です。例え逆転の切り返しがあったとしても、断られた後では使うタイミングを得られないことも多いです。
一方で、見積りなどの前に「金額、納期が問題なければ購入していただけそうですか?」と聞くと、Aという機能に懸念があることを事前に察知することができます。
このように、最終的なクロージングを行う前のプレクロージングを行うことで、失注の可能性を大きく下げることができます。
プレクロージングは質問なので、この記事で紹介するコツを使って上手くお客様の状況を聞き出してください。
質問の目的を明確にして、質問をする
質問をする目的は様々あり、自分の中で明確に意識して質問をすることが大切です。
質問=情報を引き出すこと、と思っている人が多いですが、実は質問の目的は他にもあります。
代表的なものは以下の3種類です。
- 情報を聞き出す質問(多くの人が最初に思いつく目的)
- 気づきを与える質問
- 行動を促す質問
下の2つは営業のヒアリングならではものかもしれません。
優秀な営業マンはお客様に自ら気づかせて、行動させます。そのために重要なのがそれぞれに適したヒアリングなのです。
営業のヒアリングで役に立つフレームワーク3選
営業のヒアリングにはいくつか型が存在します。
型を知っておくことで、困ったときの指針にすることができるので、ヒアリングの基本として覚えておくことをおすすめします。
SPIN
SPINとは、お客様の潜在的なニーズを引き出すためのフレームワークです。
詳細は割愛しますが、SPINの考え方では、以下4段階の質問をしていくことで、お客様のニーズを顕在化させ、商品やサービスの購入に繋げることを目指します。
- Situation:状況質問
- Problem:問題質問
- Implication:示唆質問
- Need-payoff:解決質問
この4つの質問の頭文字をとってSPINと呼ばれています。
優秀な営業マンは無意識にできているテクニックになるため、是非身につけてください。
詳しくは以下記事にまとめているので、是非ご確認ください。
BANT
BANTはお客様の受注確度を測るためのフレームワークです。
BANT条件を全て満たしていれば受注確度が高く、満たしている項目が少ないと受注確度は低くなります。
逆に言えば、このBANT条件を埋めるような営業活動ができれば、受注確度が高くなることを指します。
- Budget:製品・サービスの導入予算
- Authority:決済者、意思決定者
- Needs:お客様のニーズ、必要性
- Timeframe:導入時期
これら4つの条件の頭文字をとってBANT条件と呼ばれます。
ヒアリングする際に、この点が埋まっているかを意識するだけで、かなり効率的なヒアリングを行うことができます。
詳しくは以下記事にまとめているので、是非ご確認ください。
MEDDIC
MEDDICとは、BANTと同様にお客様の受注確度を測るためのフレームワークです。
- Metrics:測定指標
- Economic Buyer:決裁権限者
- Decision Criteria:意思決定基準
- Decision Process:意思決定プロセス
- Identify Pain:課題
- Champion:擁護者
これら6つの条件の頭文字をとってBANT条件と呼ばれます。
BANT条件よりも、判断基準となる項目が多い分、より精緻に判断することができます。ただ一方で、決済権限者と擁護者の2パターンを確認するなど、より深くお客様と関係性を持つ必要があります。
そのため、どのくらいその案件に時間をかけるのか、どのくらい重要なのか、によってBANTとの使い分けが必要です。
BANTに比べてMEDDICは、一度の商談で確認できる情報の範囲を超えているため、使い所は限定されると思います。
営業に必須のヒアリングシートを活用するコツ
ヒアリングシートは、効率的な営業活動を行うためには必須のツールです。
ツールの内容については、各社それぞれの拘りがあると思いますので、参考程度にしてください。
ただし、ヒアリングシートがない場合、この記事の内容を基本としてすぐにでも作成してください。
ヒアリングシートの有無でヒアリングの効率が大きく異なります。
ヒアリングシートに入れるべき項目
ヒアリング項目に入れるべき項目は、最低限入れておくべきものと、入れておくと便利なものに分かれます。
種別 | 項目名 | 内容 |
---|---|---|
必須 | 現在抱えている課題 | 商品・サービスを利用して解決したい事象 |
必須 | 課題の背景にある問題 | 解決したい事象が発生している原因 |
必須 | 予算 | 予算が決まっているか、既に確保してあるか |
必須 | 決済者の承認有無 | 決済者に話が通っているか |
必須 | 納期 | いつまでに必要か |
任意 | 競合の有無 | 他の会社にも声をかけているのか |
任意 | 受注要件 | 受注する上で満たすべき必須の条件は何か |
任意 | 担当者の業務内容 | 担当者はどのような業務をしているか |
任意 | 担当者の所属部署の業務内容 | 担当者の部署ではどのような業務をしているか |
任意 | 会社全体の取組 | 会社全体として取組んでいることは何か |
任意 | 説明を聞いた印象 | 説明を聞いた率直な感想 |
任意 | 懸念点 | 受注要件以外の懸念点 |
商材によって異なると思いますが、BANTに関わる内容は必須、それ以外が任意になると思います。
この必須項目は打合せ中に必ず埋めるべき項目としてご認識ください。
また、項目は会社の方針で増減させても問題ないですが、把握できる範囲で設定することをおすすめします。※項目として入れたものの、いつも空白になるようなものがあれば削除してください。
ヒアリングシートの使い方
ヒアリングシートを実際に使う方法は以下を参考にしてください。
- STEP1:事前調査で分かっている情報を書き込む(事実と予想はわかるように記載する)
- STEP2:打合せ当日確認することを決める
- STEP3:打合せ中はチェックリストとしてヒアリングシートを利用する
- STEP4:打合せで確認した内容を入力する
- STEP5:今後情報アップデートあれば常に最新の状態に更新する
ヒアリングシートを打合せ当日にだけ使うものと考える人がいますが、打合せ前、打合せ中、打合せ後とそれぞれのタイミングで活かすことが重要です。
ただし、ヒアリングシートを使うと、アンケートのような印象を持たれるヒアリングをする人も多いので、次に説明する注意点を確りと認識した上で活かしてください。
営業がヒアリングをする時の注意点
ここまでの内容を実践していただければ、あなたの営業力は飛躍的に向上します。
ただし、これまでのコツを意識し過ぎると、悪い報告に進んでしまう場合があります。
そのため、ここでご説明する注意点もしっかりと胸に刻んだ上で、これまでの内容を実践してください。
質問のタイミングを間違えない
どんな質問も、質問をするタイミングが間違っていると、お客様は適切な回答をしてくれません。
例えば、「将来どのようになりたいのか」という質問を考えてみましょう。
この将来ありたい姿は、答えるのが難しい、個人や会社の深い部分に関する質問になります。
この質問を、
A)会って数分の人
B)信頼している人
からされた時、回答はそれぞれ別のものになります。信頼をしていない人に深い質問をされれば、失礼な人という嫌悪感を抱くことも少なくありません。一方で信頼している人であれば、親身になって考えてくれる人という好感を抱いてもらえます。
この様に同じ質問でも、相手に与える印象は、質問をするタイミングによって大きく異なります。
ヒアリングのコツでもご説明した、相手の回答しやすい質問から行う、というのは、信頼を得るために小さいステップを積み重ねる意味も含まれているのです。
質問攻めにしない
ヒアリングを確りと行う意識が強い人ほど、質問をし過ぎる傾向にあります。
「過ぎたるは及ばざるが如し」という言葉があるように、正しいことでもやりすぎはマイナスに働きます。
ただし、この質問攻めに関しては、質問の量、よりも質問の質(やり方)に問題があることが多いです。
真面目な営業マンほど、事前にヒアリングシートを入力し、商談で抜け漏れが出ないように順番に質問を続けます。
ただこの必要情報を一つずつ確認し、足りない項目を埋めるという感覚が、お客様の不快感につながることがあります。
大原則として、営業のヒアリングは「アンケート」ではありません。あくまでの営業のヒアリングは「会話」です。この意識を持つと、お客様に与える印象が大きく異なります。
- アンケート:一問一答形式で必要な情報を確認する
- ヒアリング:会話の中で必要な情報を確認していく
この様に、会話の中で自然な流れで情報を集める必要があります。
アンケートの場合、一つずつ順番に確認することが意味を持つことがあるのですが、営業のヒアリングでは、そのような場面はほとんどありません。
アンケート形式になっていると、お客様は質問に回答している感覚になり、質問が多いと嫌気が指します。
一方で会話がメインのヒアリングでは、お客様は回答をしている感覚が薄く、あくまで話をしているだけなので、不快な思いをさせることは少ないです。(あまりに長過ぎる会話も問題なので、限度はあります。)
集めたい情報が多いと焦る気持ちもわかりますが、まずはお客様とのコミュニケーションを優先するようにしてみましょう。
会話形式で、様々な項目に話が飛んだ場合も、ヒアリングシートがあれば、抜け漏れがないヒアリングが可能です。
否定的な回答で終わらないように工夫する
商談の最後や、話題の区切りとなるタイミングは、必ずポジティブな発言で終わるように工夫しましょう
ヒアリングをしていると、当然否定的な発言を受けることも多くあります。
この事実自体は変えられないですし、否定的な発言も重要な情報なので受け止める必要があります。
一方でその場の対応としては、ポジティブな内容で締めて、次の会話に進むことが大切です。
人は会話の内容よりも、どのような結論で終わったのか、最後の印象で記憶が定着します。終わりよければ全てよし、というように、ポジティブな情報で会話が終わる必要があります。
例えば、高いよ、という意見を言われた場合、わかりましたで会話が終われば、高いという印象しか残りません。
一方で、「高価な分、高品質で、業務効率を大きく上げます」という情報で終われば、高品質な商品という印象でお客様の心に残ります。
このように、会話の終わりをポジティブにした後、次の話題に進むことが重要です。
ただし、高いという意見も重要な情報のため、社内に持ち帰る情報としては漏らさずネガティブなまま共有しましょう。
まとめ
ここまで説明した内容を実践してもらえれば、必ず効果的なヒアリングを行うことが可能です。
効果的なヒアリングが可能になれば、営業の最終目標である「受注」の確率が大きく向上します。
売上という結果を積み重ねることで、あなたが営業マンとして大きく成長できることを願っています。
そしてある程度成長ができた際には以下の記事を参考に、次のステップを考えることをお勧めします。不明点あればお気軽にお問い合わせください。
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